ジャーニー

4月を迎え、社会人としての人生カウントが1つ増えた。

ただそれだけのことなのだけど、「そわそわ」してしまう自分がいる。

毎年この時期は、「そわそわ」している気がする。

何かを始めたいと思いはするが、考えるまでにはいかない。

そうこうしている内にクールビズの時期がきて、七分丈のYシャツを買おうとして

梅雨がきて、折りたたみ傘を買おうとして、

本格的な夏がきて、甚平を買おうとして、

秋だな。なんて思っている内に、冬になって広瀬香美が流れて

食べもしないケーキとチキンを買って、胃もたれして年が明ける。

 

毎年こんな流れを繰り返しているだけなのに、

買ったのはケーキとチキンだけなのに、4月がくると「そわそわ」する。

「そわそわ」だけを脳内検索をすると、高校入学時代の記憶が上位にくる。 

 

高校に入学した日だ。

 

第一志望の高校に入学した私は、楽しみにしていた。

それは新しい出会いに。

私は東京出身ではあるが下町の育ちで、TVの街頭インタビューで渋谷やお台場にいる

キャミソール姿の女性を見ては「都会はすごい。女子がブラジャーで歩いている」と

毎日思っていた。

 

いくら下町でも腐っても都内。

言い過ぎと思われるかもしれないが、私の中学本当に下町で指定ジャージの色が上下エメラルドグリーンという中学校だった。

3つ上の姉がそのジャージを着ているのを小学生の時に見て、三沢光晴かよと本当に思った。

目立つ色ではあるから、部活で区の大会なんかに出ると同級生を探すことに苦労はしないのだが、周りの中学生から好奇な目で見られるのが嫌で、みんな一人にならないように集団でいつも動き、余計に目立ってしまっていた。

なんのメリットも感じないジャージ。

女子なんかは楽だからという理由で塾やお祭りにもそのジャージでくる。

帰り道に気になる子を誘って土手で話しをしていても、

エメラルドをまとっているが故に魅力が半減してしまう。

やっと誘い出したのに。

手をつなぎたいのに。

頭の中ではその先のシミュレーションもできているのに。

エメラルドが邪魔をする。

もはや中学生にいけない秘め事をさせないために、この色を採用したのか?と

勘ぐりたくなるくらいのエメラルド。

 

でも、高校は違う。

高校はいろんな地域から来る。

ましてや私が進学した高校は「品川区、目黒区、世田谷区、渋谷区・・・」と洗練された地域に住んでいる女子が数多く進学してくる学校であり、校舎もそれなりに綺麗で人気のある高校だった。

中3の秋に塾の先生にその話しを聞き、学校見学もせずにそこを第1志望にした。

勝手にカワイイ子がくると思い込んで。

 

すごく勉強した。

寒さを耐えるために、祖母が作ったちゃんちゃんこを着て勉強した。

サムシングエルスの「ラストチャンス」を聞き自分を勇気づけた。

そうすべては、エメラルドを私服にして地元を歩き回っている女子から離れるため。

たまたま同じ時期に近い地域に住んでいる子供たちを集めた中学とは訳が違う。

そもそも高校は義務教育じゃないし、ましてや洗練された地域から生徒が集まるんだ。

きっとカワイイ子が集まる。そう信じていた。

 

そして入学式。

信じていてよかった。いままで見たことのないくらいのキラキラした女子がたくさん

歩いていた。もう「そわそわ」MAXだ。

入学後しばらくして他クラスの港区出身の友人が「お前のクラス可愛い子いないな。」言っていたが、私には信じられなかった。

このクラスのレベルで可愛くないなら、こいつはエメラルド中学を2週間も過ごすことができまい!と変な優越感を抱いたくらいだ。

とにかく幸せだった。この空間で3年間過ごせるんだ。

こんなに洗練されている子ばっかりだったら、もはやジャージなど私服として使用するわけがない。

夏休みなんかはキャミソールなんだろう。

花火大会は浴衣なんだろう。うなじ見せるんだろう。手には何を入れるんだかわからない和柄のお洒落な小袋を持ってくるんだろう。

冬はラルフローレンのマフラーをしてくるんだろう。

4月1日なのに12月くらいまでの学生ライフをイメージした。

 

これは最高だ。努力してよかった。本当に思った。

・・・午後の身体測定を行うまでは。

 

この日は入学式→クラスメイトと初顔合わせ→昼食→オリエンテーション→身体測定というスケジュールで進むことになっていた。

私は昼食に始まったオリエンテーションの時間に、12月以降のイメージをしていた。

1月頃にクラス替えの事実をしって、せっかく仲良くなったクラスが解散する

なんか思い出を作ろう!みたいな感じになって。

みんなで出かけて、そこでなんやかんやあって・・・好きな子に告白して・・・

あー!いい思い出だ。あとは実現するだけだ。

そんな幸せをイメージしていた中で、担任が発した言葉が耳にはいってきた。

「・・・2年生はアカ 1年生の君たちはミドリだからね。」

うん?色の話し?何の話かわからないけど、確かに色の話しをしていた。

2年生は・・・の文言から推測するに学年ごとに設定カラーがあるのかなくらいの理解ができた。

入学初日で初めましての同級生に「今何の話し?」と聞く勇気が湧かず

その解釈で自己理解を進めていた中で担任が続けて言った。

担任「じゃあ、今から名前を呼ぶからジャージを取りに来てください。アオキさん」

アオキさん「はい。」

担任「ジャージに刺繍されている名前も確認してくださいね」

 

衝撃だった。

担任がアオキさんに渡しているジャージの色がミドリだった。

しかもエメラルド寄りの・・・・。

 

なぜなんだろう。どうしてなんだろう。

どうしてジャージにミドリを使用しているんだろう。

塾の先生はどうしてジャージの色を教えてくれなかったのだろう。

どうして1年後に生まれなかったのだろう。

 

1月までイメージしていた女子の服装が・・・

エメラルドに塗り替えられていく。

「そわそわ」しぼんでいく。

 

見慣れた色のジャージを来て身体測定に向かった。

心なしか他の同級生よりも着こなしている私がいた。